治療方針
可能な限りマイクロスコープにて、外耳道や鼓膜の状態の確認を行い、記録された画像をモニターでお見せしながら、状態の説明をさせていただきます。聴力検査やめまいの検査などの各種検査結果もお見せしながらご説明します。プリントアウトが可能な検査結果はお持ち帰りいただけます。
当院では、耳・鼻・咽頭に関する診察、治療の多くを適切に行うことが可能ですが、突発性難聴や顔面神経麻痺、悪性腫瘍が疑われる場合など、より詳細な検査や手術の適応などの判断が必要な疾患が判明することがあります。
そのようなときは、大学病院などとの連携治療をおすすめすることがあります。
マイクロスコープで診察する理由
大学病院と連携する理由
突発性難聴や顔面神経麻痺と診断した場合は重症度と患者様のご都合にもよりますが、出来るだけ早期に可能な治療を行ったほうが治癒率が高いため大学病院の受診をお勧めしております。
また悪性腫瘍が疑われるときは、安易に組織検査を施行することによって、病変の悪化を招く恐れや治療が遅れる事があるため、速やかに設備の整った大学病院や総合病院にご紹介させていただいております。
多い症状
耳鳴りがする
ボーボー、ゴーゴーといった耳が詰まった感じがする低音域の耳鳴り、ジージー、ザザーといった中間音域の耳鳴りやキーンといった高音域の耳鳴りがあります。
2週間以上続く難聴を伴っている耳鳴りは改善が難しい場合が多いです。ただし低音の変動する難聴を伴っている症例のなかには改善する症例もあります。いずれにしても発症時期や聴力の状態の確認が必要なので、症状が2日以上続く場合は耳鼻咽喉科受診をお勧めします。
耳が痛い
耳の痛みは耳が原因でおこる(耳性耳痛)は外耳道炎、急性中耳炎、外耳道真菌症などが考えられます。
耳以外の原因でおこる(関連耳痛)としては、顎関節症、急性咽頭炎や急性扁桃炎、耳の奥の神経痛などが考えられます。まれに神経の痛みでは、数日後からウイルスによる顔面神経麻痺を起こすものもあります。
耳の周りや耳たぶにしこりがある
皮様のう腫などが考えられます。
痛みを伴う場合は感染兆候があるので、抗生物質での治療となりますが、しこり単独の場合は摘出術が必要となる場合があるので、手術が可能な皮膚科や形成外科の受診をお勧めしております。
耳が痒い
耳の痒みは外耳道炎、外耳道湿疹が考えられます。
痛みや耳漏を伴う場合もあり、原因は圧倒的に耳のいじりすぎです。痒みのある外耳道をさらに掻くことによって皮膚を傷つけて炎症が悪化し、さらに痒くなるといった悪循環を繰り返す症例も多く見られます。
耳だれが出る(耳が水っぽい)(耳が濡れる)
耳だれは外耳道炎、急性中耳炎、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎、外耳道真菌症などが考えられます。
痛みを伴う場合は外耳道炎や急性中耳炎の可能性が高いです。痛みを伴わず耳だれを繰り返す場合は慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎また慢性的な外耳道炎も考えられます。
耳が詰まった感じがする(耳に水が入った感じがする)
耳が詰まった感じがするときの原因は、①外耳にある、②中耳にある、③内耳にある、場合があります。
①外耳が原因の場合は外耳道炎、耳垢栓塞、外耳道異物、外耳道真菌症などが考えられます。
②中耳が原因の場合は急性中耳炎、滲出性中耳炎、耳管狭窄症、耳管開放症などが考えられます。
③内耳が原因の場合は低音障害型感音性難聴、突発性難聴、メニエール病などが考えられます。
診察にて、①外耳や鼓膜に異常が見られないようであれば、②中耳の確認のためティンパノグラム(鼓膜の動きを確認する検査)と③内耳の確認のため聴力検査を行います。
滲出性中耳炎と診断された場合、特に鼻症状のない方は、鼻の奥の腫瘍(上咽頭がんなど)が原因であることもまれにあるので、ファイバースコープにて上咽頭の診察も行います。
耳が聞こえにくい・音がこもる・音が響いて聞こえる
聞こえが悪いときの原因は、①外耳にある、②中耳にある、③内耳にある、場合があります。
①外耳が原因の場合は外耳道炎、耳垢栓塞、外耳道異物などが考えられます。
②中耳が原因の場合は急性中耳炎、慢性中耳炎、滲出性中耳炎、真珠腫性中耳炎、などが考えられます。
③内耳が原因の場合は突発性難聴、メニエール病、騒音性難聴、外リンパ漏、老人性難聴などが考えられます。
診察にて、①外耳や鼓膜に異常が見られないようであれば、②中耳の確認のためティンパノグラム(鼓膜の動きを確認する検査)と③内耳の確認のため聴力検査を行います。
滲出性中耳炎と診断された場合、特に鼻症状のない方は鼻の奥の腫瘍(上咽頭がんなど)が原因であることもまれにあるので、ファイバースコープにて上咽頭の診察も行います。また内耳が原因と思われる難聴の中には、まれに脳と耳を結ぶ神経の腫瘍(聴神経腫瘍)が原因である場合があるため場合によっては、MRI検査を行う場合もあります。
めまいがする
めまいはグルグル回る回転性とふらふらするといった非回転性のものがありますが、耳鼻科疾患のめまい(内耳性のめまい)の多くは回転性のめまいです。
代表的な疾患は①良性発作性頭位眩暈症、②前庭神経炎、③メニエール病、④突発性難聴などが考えられます。
①、②は難聴を伴わない回転性めまいが主体であり、③ ~ ④は難聴を伴います。また、まれにですが慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎の炎症が内耳に波及してめまいを起こすこともあります。内耳以外の原因としては、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍などの中枢性のめまいや、自立神経の障害や肩こりによるめまいなどもあります。
耳の構造
耳の構造と機能
耳は大きく「外耳」、「中耳」、「内耳」の3つに部分に分けられます。
「外耳」は耳介と外耳道からなる部分で外耳道の最も奥に鼓膜が張っています。
鼓膜から奥が「中耳」で骨に囲まれた鼓室と呼ばれる小部屋から成っています。ここには鼓膜と内耳の間に架かる橋のように3つの小さな骨(耳小骨)が存在しており、耳管によって鼻の後方の鼻咽頭とつながっています。
「内耳」は「中耳」のさらに奥で骨の中に埋もれている部分で、聴覚に関わる蝸牛と平衡覚をつかさどる前庭や3つの半規管(三半規管)から成り、これらの中はリンパ液という液体が入っています。
蝸牛には聴こえの感覚細胞である多数の有毛細胞があり、ひとつひとつの細胞に聴神経の終末部分が付着しています。
多く見られる病気
耳あか
耳あかをほっとくことで:
長い間放置され溜まった耳垢は耳垢栓塞という耳栓のような状態になって聞こえが悪くなってしまうことがあります。また耳に水が入り、耳垢が濡れることによって外耳道炎を起こすこともあります。
耳あかを間違った方法で除去することで:
除去するつもりが、逆に耳垢を押し込んで耳垢栓塞のなってしまったり、外耳を傷つけ外耳道炎を起こす場合などがあります。
外耳道炎
症状:
耳の痒みや痛みがあり、耳を引っ張った時に痛みがある場合は可能性が高いです。
多い原因:
耳あかの充満・耳掃除のしすぎ・イヤホン・アレルギー症状の悪化・真菌(カビ)などです。
診察・検査:
マイクロスコープ・耳鏡による診察にて外耳道の発赤や腫脹が見られれば診断が確定します。耳だれや分泌物がある場合は細菌培養検査を行います。
治療:
外耳の入口付近の炎症は軟膏を塗布、外耳道内の炎症は点耳薬などで治療します。発赤腫脹、痛みがひどい場合は抗生剤や鎮痛剤の内服も併用致します。
外耳道湿疹
症状:
耳の入口付近が痒く、外耳道炎を併発する場合が多く見られます。
多い原因:
耳の皮膚の乾燥・アレルギー症状の悪化・耳の掻きすぎです。
診察・検査:
マイクロスコープや耳鏡による診察で外耳道入口部の皮膚が荒れが確認された場合に診断されます。
治療:
軟膏の塗布です。外耳炎を併発する場合が多く、その場合は同時に治療致します。
急性中耳炎
症状:
急な耳痛、耳漏、発熱などがあります。
多い原因:
多くは風邪症状や副鼻腔炎などが原因で、鼻の奥の上咽頭から耳管を通って中耳にウイルスや細菌が侵入することによって発症します。
診察・検査:
マイクロスコープ・耳鏡によって鼓膜の診察を行います。鼓膜の発赤、腫脹、水泡形成、鼓膜内の貯留液、穿孔、耳漏などが見られれば診断が確定します。
治療:
軽症例は経過観察の後に、中等症以上はすぐに抗生剤の内服で治療します。重症例や難治性の中耳炎に対しては鼓膜切開を行うこともあります。
滲出性(しんしゅつせい)中耳炎
症状:
耳閉感(耳が詰まった感じ)や聞こえにくさなどがありますが、急性中耳炎とは異なり耳痛はありません。鼓膜の奥の中耳腔に浸出液(中耳粘膜から滲み出た液体)が貯留して起こる疾患です。
多い原因:
急性中耳炎が発症した後に滲出性中耳炎に移行する場合が多いです。小児の場合は上咽頭のアデノイドが大きいため中耳とつながっている耳管の開口部をふさいで起こる場合もあります。大人の片側のみに発症するものの中には、稀に上咽頭の腫瘍(上咽頭ガン)が原因の場合もあります。
診察・検査:
マイクロスコープ・耳鏡による鼓膜の診察にて鼓膜内の貯留液が確認されれば診断されます。・聴力検査・ティンパノグラム(鼓膜の動きを見る検査)も行います。鼻咽腔ファイバースコープにて鼻腔や、上咽頭の診察も行います。
治療:
薬の服用や耳管通気(耳と鼻をつないでいる管に空気を通す)にて中耳腔内の貯留液の排出を促します。鼻の奥の炎症や副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などがあると治りにくいため、これらの治療も並行して行います。
慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎
症状:
難聴、耳鳴、耳漏などがあり鼓膜に穴が空いているものが慢性中耳炎、鼓膜の一部が中耳腔内に入り込み、そこに耳垢が積み重なって周囲の骨を破壊しているものが真珠腫性中耳炎です。
多い原因:
急性中耳炎を繰り返し鼓膜の穴が残存し慢性炎症となってしまったものが慢性中耳炎に、滲出性中耳炎の状態が長引き鼓膜の一部が中耳腔内に入り込み、そこに耳垢が積み重なって周囲の骨を破壊して真珠腫性中耳炎となってしまうことが多いです。
診察・検査:
マイクロスコープ・耳鏡による診察にて鼓膜の穴や耳だれ、周囲の骨を削るように広がる耳垢の溜まりが確認されれば診断されます。聴力検査も行います。
治療:
耳漏に対しては耳処置や点耳薬などを使用します。完治するには手術が必要となりますので、患者様と相談の上連携病院に紹介させていただきます。
突発性難聴
症状:
突然聞こえなくなる、耳鳴、耳閉感(耳が詰まった感じ)、めまいなどがあります。
多い原因:
突発性難聴は文字通り突然起こる難聴でウイルス感染説、内耳循環障害説、ストレス説などがありますが、明らかな原因は不明です。
診察・検査:
まず耳鏡にて外耳や鼓膜の状態を確認します。次に聴力検査を行い内耳性難聴の有無を確認し、ティンパノグラムにて中耳の異常がないかを確認します。
糖尿病やB型肝炎、C型肝炎の既往がある方はステロイド剤の内服治療ができません。
そのため、治療前に血液検査を行う必要があります。
治療:
当院で行える治療は、ステロイド剤やビタミンB12、循環改善剤などの内服治療です。
入院が可能な大きな病院では、施設の規模にもよりますが、ステロイドの鼓室内投与や点滴治療、高気圧酸素療法、星状神経節ブロックなどの治療を併用することができます。
治療上の注意点:
発症後2週間を経過した症例の治癒率は2週間以内に治療を開始した症例に比べて低下します。
また早期に治療を開始しても完治する率は3分の1、改善はしたが完治には至らなかった率が3分の1、全く改善がみられなかった率が3分の1と言われています。
そのため当院では、できるだけ早期に可能な治療を行う事が大切であるとの考えから、可能な限り大学病院などの様々な治療を併用できる病院をご紹介させていただいております。
メニエール病
症状:
①激しい回転性めまい、②難聴、③耳鳴が同時に出現し、症状が改善している時は無症状であることが特徴です。この症状が繰り返し起こっていることが確認できた時点でメニエール病と診断されます。3つの症状がそろっている場合は完全型のメニエール病と診断されますが、全部そろっていない場合もあります。
多い原因:
直接的な原因は内耳のリンパ液の循環が滞り、内リンパ水腫となり内耳を圧迫することによって起こるとされています。内リンパ水腫となる明らかな原因は不明なのですがストレス説が有力です。ストレスによりストレスホルモンともいわれる抗利尿ホルモン(水を体に溜め込もうとするホルモン)が過剰に分泌されるために内耳にリンパ液が溜まると考えられます。
診察・検査:
赤外線CCDカメラを用いた眼振検査と重心動揺検査にて前庭機能障害の有無を確認します。そして聴力検査にて難聴の有無を確認します。メニエール病の発作時には頭位変換の影響を受けない眼振と難聴がみられます。
治療:
内リンパ水腫の解消のため利尿剤やビタミンB12、循環改善剤などの内服治療です。軽症例では利尿剤の代わりに水分を調節する作用のある漢方薬を処方します。以前は内リンパ水腫を予防するために水分摂取制限と言われていましたが、最近ではむしろ水分を多めに摂取することが推奨されているようです。これは水分を多めに摂取することによって抗利尿ホルモンの分泌を抑制することが出来ると考えられるためです。1日2リットルくらいが推奨されているようですが、無理せず飲める範囲で構いません。
急性低音障害型感音性難聴
症状:
難聴の自覚がなく耳閉感(耳が詰まった感じ)のみの場合が多く見られます。耳閉感と耳鳴、めまいなどがある場合もあります。まれに両耳で起こることもありますが、多くは左右どちらかの耳で起こります。メニエール病の一種と考えられます。
多い原因:
メニエール病の一種とも考えられストレスが関与していると言われています。
診察・検査:
外耳や鼓膜の異常がないこと、ティンパノグラムにて中耳の異常がないことを確認します。そして聴力検査を行い500Hz以下の低音部に限局した内耳性難聴が認められた場合、診断されます。
治療:
メニエール病の治療と同じく、利尿剤や水分を調節する漢方薬、ビタミンB12、循環改善剤などの内服治療です。
耳下腺炎(おたふく風邪・流行性耳下腺炎)
症状:
耳下腺炎の症状は耳下部腫脹、耳下部痛、発熱などが見られます。おたふく風邪、流行性耳下腺炎といったウイルス性の耳下腺炎は両側が腫れることが多くみられ、細菌性の耳下腺炎では片側の腫れが多く見られます。
多い原因:
ウイルス性の耳下腺炎はおたふく風邪の原因となるムンプスウイルスが原因となり、細菌性の耳下腺炎は細菌感染が原因となります。
診察・検査:
ウイルス性耳下腺炎は血液検査にてムンプスウイルスの抗体価を測定することによって診断されます。細菌性の耳下腺炎、特に急性化膿性耳下腺炎の場合は耳下腺をマッサージし唾液が出る部分から膿の流出が確認されれば診断されます。
治療:
ウイルス性耳下腺炎は治療薬がないため、発熱がある場合解熱剤による対処療法となります。細菌性耳下腺炎は抗生剤の内服治療です。
出席停止期間:
ウイルス性耳下腺炎(おたふく風邪・流行性耳下腺炎)の出席停止期間は耳下腺が腫れてから5日間経過し、全身状態が改善するまでの間となります。
合併症:
ウイルス性耳下腺炎の主な合併症は難聴、髄膜炎、思春期以降の男性に睾丸炎、女性に卵巣炎が見られます。特に難聴は0.5%程度の頻度ですが、改善することがなく高度難聴となる場合もあります。現在ムンプスワクチンは任意接種ですが、ワクチンの副反応で起こる難聴の確率は0.1%以下といわれているのでワクチン接種は有効であると考えられます。
よくある質問
いずれの耳鳴りであってもご自身が耳鳴りが鳴っていることを強く意識する事によって、ご自身で耳鳴りを『自分に必要な音』と認識してしまう事となります。特に、周囲で音がしている環境では気にならない耳鳴りが、夜寝る前に静かになると気になって寝られない人などがこれに相当します。まずは耳鼻咽喉科で聴力の状態を確認することが第一です。
大人の場合は耳垢が乾燥しているタイプの場合は特に掃除の必要はないか、溜まりやすい方はご自身で除去するのは難しい場合が多いため、定期的な受診をお勧めしております。
耳垢が柔らかいタイプの場合はまとめて掃除しようとすると押し込んでしまう場合が多いため、毎日風呂上りに濡れた耳を綿棒で軽く拭く程度の掃除をお勧めしています。
耳は脇と同程度の発汗と皮脂分泌があると言われています。
鼓膜に穴がないことが大前提となりますが、耳の外側や外耳道の入口の余分な皮脂を除去することによって耳のかゆみや耳垢のたまりを予防することになるので、洗顔の泡で軽く洗うことやシャワーで軽く洗う程度の洗浄をお勧めしております。